とある事件についての考察

　指から落ちた硬貨は、そのまま客の足元へ落下した――次の瞬間、客である老人が店員を怒鳴りつけた。
「拾えっ!」
「…申し訳ありません」
　店員の男はレジから客側へ回り、腰を屈めて硬貨を拾い、再度、申し訳なさげにペコペコと頭を下げた。
　だが、老人は怒鳴り続け、男の接客に問題があることや、釣銭すら満足に渡せないことや、謝罪ひとつできないことを延々と罵った。
　…よくあることだ。
　男は半ば諦めたかのように話を聞き続けていたが、老人は言葉を選ぶのを忘れたのか「いい歳して子供でもできる仕事もできないのかっ!　恥を知れっ!」と罵倒した。

　それが、決め手だった。

　激昂し、老人の髪を鷲掴みにし、頭部を床にガンガンと打ち付けた。何度も。老人が意識を失い手足を痙攣させるまで、それを続けた。

　不思議と、男の胸中に後悔の念はなかった。
　警察が到着するまで間、彼は清々しい気持ちで余韻に浸った……。