ガラスの檻

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いったいなにが気に食わないって、この翼だ。

「篠山くん篠山くん」

上司の松林がよいしょ、という掛け声とともにバインダーの束を机に乗せる。
どしん、と机が振動し、薄型のディスプレイが揺れる。

「これ、明日まで、よろしく頼むよ」

時計の針は午後十一時半を回ったところだった。



屋上のフェンスを乗り越え、篠山はもういちど試してみた。今度はうまくいくかもしれない。目を閉じ、そっと足を差し出す。

しかしいつまで待っても、落下の感覚が訪れない。ばたばたと風を煽る音が聴こえる。目を開け、篠山はやっぱりダメだ、とひとりごちた。

ホームで終電を待つ後輩の山口が隣の松林に訊いた。

「篠山先輩、なんで逃げないんでしょう?」

「良いんだよ。彼がああやって気づかずに居てくれるだけ、俺たちは平和に暮らせるんだから」

ビルの上で翼をばたつかせる篠山を見上げながら、さっさと転職しようと松林は思った。
その他
公開:20/08/26 13:19

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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