嘘の彼方

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「君は、なんて美しいんだ」
「王子様……」
 僕は人魚に恋をしてしまった。だって本当に綺麗だ。その淡い白銀の髪も宝石みたいな青い瞳も。
「また、来てください。私はいつも待っていますから」
 僕らは夜になると秘密の逢瀬を重ねた。
 ある夜、彼女は泣きながら言った。
「もう嘘はつけません。実は私の父はギャンブラーで、とうとう私をカタに、莫大な借金を作ってしまったのです。もうじき私は売られてゆくのです」
 彼女は泣き崩れた。
「なんて酷い話だ。僕が話をつけようか」
「話の通じる相手ではないのです! 私が拒否するというならば、王国中の金銀財宝をよこせと」
 ああ、なるほど。そういう事か。
「どうせ嘘だろう」
「本当です!」
 彼女は潤んだ目で叫ぶ。
「そういう人魚詐欺には気をつけろって、陸では有名だよ。それにね、僕、ムリ。そもそも王子じゃないから」
 彼女はチッ、と舌打ちをすると海に戻っていった。
その他
公開:20/08/26 11:02
更新:20/08/26 17:20

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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