夢枕虫

故郷では藤枕に虫を入れる。
蝶や蜉蝣ならいい夢や運気を連れてくる。
金運にいいとコガネムシやカナブンを入れる人もいる。

枕虫を1度捕まえたら最後まで世話をし可愛がること。
途中で逃がしてしまうと寿命を弄ばれた虫から呪われる。
そう言い伝えられている。

私は恋をしていたので蚊を捕まえた。
血を吸う蚊は交尾を済ませ卵を産むために栄養を欲している雌だ。
想いを遂げた女として恋愛成就には蚊を使う。
内側に蚊帳の布を貼り付けた藤枕は年頃の女の子達の必需品だ。


羽音が頭に響くような気がした。


いくら幼少期から羽音や脚の音に慣れているとはいえ、些か耳障りだ。
それでも片想い相手を考えながら耐えた。
そういえば、血を吸われる前に枕に入れてしまったけれど…この蚊は想いを遂げていたのだろうか…
もし、まだだとしたら…



気付けば私は片想い相手の上に跨り、首筋に歯を当てていた。