決闘の血統

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 青年は寺院で待っていた。夏の陽炎の中、突然、煙が舞う。蹄の音、いななき。煙るむこうから、緑の馬を降りた男が、不敵に近づいてきた。
「待たせたな」
「1年ぶりだな」
「どれくらい腕を上げたか、見てやるぜ」
「いつまでもあんたがチャンプじゃ、ねえ」

 向き合った二人。両手を脇に垂らし、構える。鐘がなりはじめた。同時に動く。

「〇〇社の」「××社の」「営業の」「お客様担当の」
「「ヤマダです!」」
 ほぼ同時。共鳴する声。完璧な礼とともに、二人は相手に突き出していた。両手で持つ名刺。

「やるじゃねえか、その技。一位も近いな」

 セールス技能選手権3連覇、最優秀売上記録の表彰は数知れず。伝説の営業マンと呼ばれていた男は、紫の牛に揺られて、悠然と去っていく。

「来年こそ、越えてやる」八月も暮れていく。煙と灯の彼方、想い出通りの父の背中に、青年は再戦を誓った。
その他
公開:20/08/25 22:56
空想競技

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