影踏み

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ある小学校のグラウンド。茜色に染まる空の下、二人の親子が対峙していた。

「さすがだ。父さん」

影踏みの地方大会決勝。ジュニアは父親譲りのセンスで自分の影を狙う敵を躱し続け、ここまで勝ち上がってきた。しかし。

「踏む影がない!」
「ふふ」

夕焼けで色濃く映るはずの影が父にない。出世競争に敗れ窓際に追いやられた父は塞ぎこみ、影を失っていた。

「でも、秘策があるよ」
「なに」
「あなた」
「お前!」
別居中の妻だった。
「聞いたわ。あなたが毎月、私の口座に生活費を入れてくれたこと。今まで...ごめんね」

「いまだ!」

父に影が射すとジュニアはすかさず、足元に浮かぶ闇を踏みつけた。

優勝はジュニアに決まった。
疲弊しきって影を落とした二人に声をかける者はいない。一人を除いて。

「今日はハンバーグよ」

決戦を終え帰路に着く三人の影は、昔のようにMの字にシルエットを浮かべていた。
青春
公開:20/08/25 21:21
空想競技

イチフジ( 地球 )

マイペースに書いてきます。
感想いただけると嬉しいです。

100 サクラ

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