人魚姫

2
3

薄紫混じりのピンク色した雲。
夕陽も濃いめのピンク。
海面の小波さえ染まる。

鱗を1枚。もう1枚。

指先ほどの細かい貝殻のようなそれを集めていく。
桜貝色、菫色、薄墨色。

1つ思い出しては、1枚拾う。

あの日彼女が消えた日から、この海岸には鱗が落ちているようになった。
どんな思いで暮らしていたか、彼女のお姉さんから聞いた。
病で寿命が幾分も残っていなかったこと。
薬の副作用で声はほとんど出せず、脚には激痛が常に伴った。その中で笑顔で暮らしていたと。
僕のことが、好きだったと。


記憶の片隅に柔らかい笑顔。
僕の姿が見えると走りよってきた。
きっと脚は飛び上がるほど痛かっただろう。
そんなことは微塵も感じない軽さで抱き着いてきたから、知らなかったんだ。

1つ思い出し、1つ後悔する。
鱗を1枚。また1枚。
君の残骸だと思って丁寧に拾う。
公開:20/08/27 00:33

雨森れに( 東京 )

色合いの綺麗な物語を紡ぎたい。
シーンごと切り取られた刹那。
不思議、恋愛、ファンタジー、怪談、純猥談などをチラホラと。
中身はお酒が好きなアグレッシブ。

Twitter: https://twitter.com/rainy02forest
note: https://note.com/tettio02
Radiotalk: https://radiotalk.jp/program/61359

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容