ボクシングアソング

セコンドの彼女を横目に、私はリングの五線譜をシャープに飛び越えてフラットなマットに立った。遂にボクシングアソングの世界ソプラノ級王座決勝戦が始まる。

試合開始のトライアングルが鳴り響いた。私は8ビートのステップを踏みながら右左右とパンチを繰り出す。パンチが空を斬る音でドミソとＣコードを奏でる。体のハ長調子は良い。しかも敵は二短調なパンチだ。

最終楽章までいかずに、フィーネだ。

アッパーなステップから右ビブラートの打ち語りを構えた。しかし突然体がグラッと傾いた。脳が揺れる程の不快感。相手の音が半音ズレている？まさか私が聴ックボクシングアソング出身と知っていて…

敵のオンチをモロに喰らい、敵につられて音程がダウンした。ここで第一楽章終了のトライアングルが鳴った。

ピンチを免れてコーナーに戻った私に、セコンドの彼女は優しく唇を重ねた。

よし、第二楽章のチューニングは完璧だ。