創作落語『妙名関所』

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男が箱根に向かう途中、峠の関所を訪れた。
「えらく並んでいらっしゃるな」
夏場の観光シーズン。
暑い時期に入る風呂もまた格別だとか言う俗人で行列ができていたが、男は商家にお勤めに参ったのだ。
陽炎を見せるほどの暑さで波打つ列の先に大きな看板が見える。
「真の名を言わざるもの通るべからず」
関所は言わば国境検問所。物騒な世の中では、スパイと同じくらい厳しい役人がいるのだと納得した。

すると前のやたら図体のでかい男が止められた。
「名は何という」
「雷電為衛門という」
「そんな名があるか」
「あるものはあるのだ」
ひと悶着あってその大男が役人をひょいと投げ飛ばすと、男の番が来た。
役人がよろよろ戻ってきて尋ねる。
「名は何という」
「へぇ。鈴木寿限無と申します。」
「そんな名があるか」
「では本名を。寿限無寿限無五劫の擦り切れ…」

役人は長風呂したかのように、すっかりのぼせてしまっていた。
SF
公開:20/08/30 18:00
更新:20/09/17 09:14
創作落語 寿限無

まのじゅん( 神戸 )

まのじゅん/間野 純
神戸市在住の26歳
執筆は2020年春ごろから

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