コクリツ、クニタチ

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首都の西の外れに国立という街があった。

国立と書いてコクリツ、と読んだ。昔は。

名前の通り国が直轄で整備を進める街だった。緑豊か。学校には選りすぐりの先生がそろい、偏差値どこ吹く風で興味関心を広げる人間教育。伸び伸び個性を伸ばす、真の文教都市だった。

それが、いつだったか。誰かがコクリツをクニタチと読み違えた。その呼び名は次第に浸透。みんなが間違えれば、間違いは間違いではなくなってしまう。国の役人は、はたと思い違えた。

「ここはコクリツではなく、クニタチ。だからクニが関わる必要はない」

クニタチから国は撤退し、代わりに首都の東に、クニタチとは真逆の結果主義、拝金主義な街を築いた。クニタチは相変わらず伸び伸び素晴らしかったが、いわゆる地方都市の一つと位置づけられ、国全体への影響力を失った。

その国は人間関係が極めて窮屈となり、東の首都とともに衰退していった。

間違いは恐ろしい。
その他
公開:20/08/24 19:45

ふみなか( 東京 )

40代半ばの会社員。家族は妻、中3息子、小6娘。つらつらと文章をつづるのが好きです。読んでいただけたら嬉しいです。

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