カマキリの卵

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ねえ、一緒に行かない?
移動教室の度、Kは僕に声を掛けてきた。
ふん、僕の事を友達のいない可哀そうな奴だとでも思っているんだろう。腹が立つからいつだって僕は彼を無視していた。

その日もKは声を掛けてきた。だけど僕は酷く苛立っていたんだ。お気に入りの昆虫図鑑を家に忘れてしまっていたからね。気が付けば僕はこんな事を口走っていた。
どうせ君は僕が一人で行くのが可哀そうだとでも思ってるんだろ?僕はね、君みたいな人間といるより昆虫の事を考えている方がよっぽどマシなんだよ。いいか、二度と僕の心を決め付けるな。

それ以来Kが声を掛けてくる事は無かった。

それから少ししたある日、移動教室へ向かう渡り廊下で面白いものを見つけた。カマキリの卵だ。じっと見惚れているとKがボソッと声を掛けてきた。
何の卵か教えてほしかったんだ。
それだけ言うとKは立去った。
僕は少し前にKに吐き捨てた言葉を思い出していた。
青春
公開:20/08/24 18:29

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