いのちの火

3
7

 すっかり日の落ちた帰り道、私と父の前を照らすのは一張りの提灯。だが、父は提灯の火が風によって消えてしまうのを恐れているのか必死に身体をかぶせている。
 「父さん、暗いよ」
声を掛けても反応は無く、父は黙って懐の提灯の火を見つめている。その目は人のものとは思えぬほど黒く、だが妙に生々しかった。正直、気味の悪い目だ。
 「父さん」
 咄嗟に大きな声で呼びかけた。こうでもしないと、父が父でなくなってしまう気がしたし、何より私が正気を失ってしまうと思ってから。だが、父は無反応だった。
 体が静かになるほどの恐怖を覚えた。手足が微かに震えはじめ、もうどうしたら良いか分からず、私は父の手元に、提灯に縋りつくように飛びついた。すると、乱暴な私の行いに父は驚いて提灯を手放してしまった。
 ごとっと提灯は地面に落ちて、私たちの少し先へ転がった。その中から涼やかな青い火の玉が這い出てきて、浮かび上がった。
その他
公開:20/08/25 20:29

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容