理不尽には、理不尽で

　僕は生まれつき体が弱く、チビで、成績も良くなかった。

　水が溜まる…。

　好きな女性がいた。けれど、その女は僕をいじめていた男と結婚したと聞いた。

　水が溜まる…。

　就職した。しかし、社長は海外からの労働者を雇うからと、僕をクビにした。生活が困窮し、サラ金の業者が玄関のドアを叩く。僕は押入れに閉じこもって息を殺した。

　水が溜まる…。

　誰かに『好き』と言ってもらったことも、『愛している』と誰かに抱き締めてもらうこともなかった。そして、悪事を働いたこともないし、人を貶めて利益を得ることもしなかった。
　そう。
　何もしていないことが罪なのか？　僕は思った。

　水が溜まる…。
　だが、その日は違った。
　溜まった水が沸騰し、体の奥で煮えたぎった。絶叫し、家具や家電をなぎ倒し、ガラスを叩き割った。

　水はもう溜まらない。
　僕は、ガソリンと包丁を携えて、街へ向かった……。