追跡電話

業界再編で新規得意先となった会社の担当に、入社間もない私は任命された。
営業マンとして24時間張り付けとの命だが、何も分からず戸惑うばかり。
上司に付き挨拶回りをし予め知っておきべき、社歴や製品知識を学び、以前からの担当者である如くに振る舞う。資材部・購買部・品質管理部等で挨拶をし、何十枚もの名刺に、忘れる前に特徴を書き込む。

背高・小太り・禿頭、また学歴・出身地、更に趣味も分かれば、囲碁・釣り・映画・パチンコ・読書・SSとかメモる。

毎日訪問し、私も相手も飽きて来た頃、時間調整しようと駅に着くと先ず喫茶店へ。
今朝も行ってきますと出たものの、喫茶店で煙草を煙らしていると店員が、会社からお急ぎの電話ですよと。
携帯もなく公衆電話の時代だ、どうして此処が分かったのか？

アシスタント曰く、いつもこの店のマッチが会社の机に置き忘れていたから、
多分さぼっているなと思ったと。何と名探偵め！