男子100m無差別級

2
4

 競技場の歓声が聞こえる。
 私はスタート地点から少し下がった場所で待つ。ついに決勝だ。
『第七コース、サトル・ナガシノ、日本』
 脚の圧電集積筋肉が小刻みに震えた。まだだ、私は意識的にそれを抑える。
『位置について』
 合図に、クラウチングスタートの態勢。
『用意』
 静寂。
『パ』
 ゴッ、と風切り音と共に私は飛び出した。『ーン』
 レギュレーション上、十歩は必須。一歩二歩とストロークを伸ばして十歩目、右脚が全力で地面を蹴った。ゴールに向かって跳ぶ。
 どうだ!?
 2.7998秒。ついに2.8秒の壁が破られた。私の順位は……二着。2.8013秒、銀。
 金はアメリカの選手で、枯れた技術の圧電筋肉を極限までチューニングしていた。新技術である流体筋肉の選手は六位に沈んだ。
 肉体改造する無差別級。今や本来の身体だけのスポーツはオマケ扱いだ。
 私は脚の出力を落とし、観客に手を振った。
SF
公開:20/08/23 19:13

八川克也

ショートショートは難しい。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容