知らない約束

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 営業マンの彼はその約束について全く記憶が無かった。けれど彼の予定表には今日の19時、あるホテルのロビーで誰かと会うことが記されていた。
「誰に何の目的で会うのかも書いてない。どうしよう。どの商品を希望されてもいいように資料を全て用意して行こう。初対面だったら、やっかいだな。顔が分からなかったら、どうなることか」
 彼は夏の暑さを忘れるほど、冷たい汗をかいていた。
 彼はホテルのロビーに着き、足元に資料をいっぱいに詰め込んだ黒い営業カバンを二つも置いていた。そしてホテルに入って来る人、エレベーターから降りてくる人、ジッと見続けて待った。けれどそれらしい人は現れない。
「もう、約束の時間を過ぎた。どうしよう」
 彼が青くなっているとそこへ女性が現れた。
「お待たせ」
 彼の妻だった。
「君。なんで……」
「あら。今日は結婚記念日で、このホテルで食事をって、あなたが言ったのよ」
「あぁっ!」
その他
公開:20/08/23 16:32

N(えぬ)( 横浜市 )

読んでいただきありがとうございます。(・ω・)/
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