清流とろり

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「夏休み中に話しておきたいことがあるの」
電話口の彼女の声は少し沈んでいるように聴こえた。
もうすぐ夏休みが終わる。僕は散髪をして、皿をしっかりと濡らした。何故だろう。短パンで逢いにゆくのはいけない気がした。
炎天下の校庭に日傘の彼女が立っている。駆け寄ると僕が落とし穴に落ちるとか、愉快な楽団が登場してパーティがはじまるとか、そんな夏を夢想をしたけど、現実は川のように淡々と流れる。
彼女の表情には大人びた憂いがあって、ちびっ子みたいに汗だくの僕は少し恥ずかしい気持ちになる。
彼女はスニーカーを脱いで、靴下で僕の汗を拭った。僕は驚いて笑ってしまう。トリッキーな彼女が大好きだ。
「さよならしよう」
彼女の笑顔はろうそくの灯火みたいに揺れていた。くるぶしまで隠れる彼女の葡萄色のワンピースが風に揺れて、夏のかげろうみたいな恋は現実に流れた。
河童の恋は片栗みたいに真っ白で、清流とろり。夏の終わり。
公開:20/08/23 14:36

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