平和の霧

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地上戦は苛烈を極めた。もはや敵味方の区別もなく獣のように本能的に反応するだけだ。
不意に濃い霧が立ち込める。手を伸ばした先も見えない。
突然銃声は止み、周囲は静寂に包まれた。

「テレビ見ていい?」
隣に座った息子が聞いた。
何という平和。あの霧がなければ、私も生きて帰れなかった。
当時各地の戦場で同じような霧が立ちこめたと聞いた。戦闘のたびに立ちこめる霧に、我々は次第に戦闘意欲を無くしていった。敵側も。あの霧が何だったかいまだにわからない。神の御業という者も。確かに私も空から見ている何かを感じた。

「狩りだ!ライオン!」
息子はお気に入りのネイチャー番組を見て興奮して声をあげた。
追いつかれたガゼルが無残に引き倒された瞬間、白い霧のようなボカシが。
さすがにそのまま放送するのは残酷だとの配慮だろう。先月クレームがあったと聞いた。
獣の争いは自然の摂理とはいえ、子どもも見るものだからね。
SF
公開:20/08/23 11:01
更新:20/08/23 11:02

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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