ビョウシツ デ ラーク

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「はい、王手」
飛車を指してシゲ爺を得意げに覗く。
「こりゃダメだ」シゲ爺がなけなしの銀歯を見せた。病室のカーテンが夏風に靡き、汗をかいた麦茶のグラスがカランと音を鳴らす。

「落ち着いて聞いてください…」

3ヶ月前、末期の肺癌を宣告された。年を越すことは難しいらしい。それなりに絶望もしたが、もうどうでも良かった。どちらにしろ俺より先に世界の方が終わるらしいし。

「一足早くカカアに会えるならありがたいねぇ」

シゲ爺が「玉」を逃す。打ち筋は言葉ほど潔くなかった。逃げの一手。「詰み」も時間の問題だろう。

「シゲ爺も吸う?」

ラークを一本シゲ爺が咥える。

「病室で吸うとうめぇだろうな」

火をつけた瞬間。

「病室は禁煙ですよ」

逃げたはずの主治医がそこに立っていた。

「見逃してよ先生、後生だ。」

バツ悪そうにする俺に先生は微笑んで続ける。

「じゃあ、僕にも1本貰えます?」
その他
公開:20/08/24 13:42
滅亡短編

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

ずいぶんお留守にしてました。

ひさびさに描いていきたいです!


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https://twitter.com/Karatsu_a

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