カンナ削り

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「お、来たのか。やってみるかカンナ」
祖父は土木建築の仕事に従事し、家の前の敷地に小さなコンテナを建ていつも何かを作っていた。私が少しでも興味を示したら「やってみるか」とすぐ触らせて貰えた。それを母は面白そうに、祖母は少し心配そうに見ていた。
私が短期大学の住宅設計科に入学することを決めた時、祖父が大事にしていた製図道具を一式、私に譲ることを決めたそうだ。
「それじゃあ、売れないな。線も弱々しい」
私の製図をダメ出ししては、手本の線を引いてくれた。その線はとても美しく強く、祖父の真面目な性格そのものだった。その甲斐あってか、授業でお手本として私の図面が貼り出された時は嬉しさで胸が一杯になった。
祖父は「まだまだだな」と笑い、祖母は「お疲れ様」と甘いカボチャと小豆でおやつを作ってくれた。
祖父が他界した今も思い出すのは削れた木屑の匂いと会いに行けていない祖母の甘い小豆の香り。
その他
公開:20/08/23 23:51
エッセイみたいなもの

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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