たすきを繋げ

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逸る気持ちを抑えて、復路のスタートラインに立つ。
昨日の往路は、花の五区で『山の鬼』の異名を持つ後輩が一気に首位に躍り出た。主将たる俺が順位を落とす訳にはいかない。
俺は号砲と同時に走り出した。二位との差はわずか15秒。角を曲がって直線道路に出るとすぐに、俺を追う後続選手の姿が次々と視界に入る。
まずは『山下りの六区』唯一の登りだ。湖を眼下に収めながら細かいピッチで坂を駆け上がり、その勢いのまま下りに入る。
すぐに二位の選手が坂の上に姿を見せた。だが下り始めた途端、バランスを崩して大きく転倒した。
彼はまだ一年生だ。経験が浅い。
標高差840mの急坂を、後ろ向きのまま全力で駆け下るには、相当の技術と筋力、何より度胸が必要だ。
「前向き」だけが全てじゃない。「後ろ向き」はこんなにも勇気のいることなんだ。
俺は倒れた彼に心の中でエールを送ると、大歓声に腹を押されながら、一気に坂を下っていった。
青春
公開:20/08/21 21:29
更新:20/09/01 13:15
空想競技 #2 駅伝

秋田柴子

2019年11月、SSGの庭師となりました
現在は主にnoteと公募でSS~長編を書いています
留守ばかりですみません

【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・note×Panasonic「思い込みが変わったこと」コンテスト 企業賞
・SSマガジン『ベリショーズ』掲載
(Kindle無料配信中)

【近況】
 第31回やまなし文学賞 佳作→ 作品集として書籍化(Amazonにて販売中)
 小布施『本をつくるプロジェクト』優秀賞

【note】
 https://note.com/akishiba_note

【Twitter】
 https://twitter.com/CNecozo

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