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 その老人は、最年長の参加者として競技に挑んだ。

 パリのエッフェル塔を眺めながら、のんびりと走る。ナイアガラの滝の轟音は、想像を超える迫力だった。
 アンコールワットにサグラダ・ファミリア、グランドキャニオン、サン・ピエトロ大聖堂、そしてルーブル美術館。
 日本では味わうことのできない景色の数々を、しっかりとその目に焼きつけた。

 老人はおぼつかない足取りでルームランナーの上を走る。現代では、仮想現実を体感できるヘッドセットをつけることで、世界中を旅して回れる。これは世界の名所を走って巡る競技だ。

 最下位ランナーとして、老人はゴールテープを切った。と同時に、老人はバタンと倒れ込み、その一生を終えた。

 老人は死ぬ間際、競技の主催者に礼を言った。

「夫婦で一度も海外旅行に行けなかったもんだから、冥土の土産になりました。天国のカミさんが、ワシのみやげ話を楽しみに待っているのです」
SF
公開:20/08/22 17:55
老人 競技 土産

ときわひでたか(常盤 英孝)( 大阪 )

《3分後にはもう、別世界。》
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