刺し蝉 ―へんな話

6
6

 新興住宅地の公園の砂場の前の木に、根元から梢まで隙間なく、蝉が待ち針で刺し止められている。胸の真ん中を串刺しにされた蝉は、おしっこをしたり、翅をバタつかせたりしている。蝉の下にも蝉が刺し止められている。それは幾重にもなっていて、全ての待ち針の頭に、日付と名前がマジックで書いてある。
 供養塔だという。
 毎夏、子供が蝉に髄液を吸われる事故が後を絶たない。町内会では、子供たちは成人するまでの期間、屋外でのランドセル着用が義務付けられている。だが蝉は、首や脇の僅かな隙間から音もなく背中に取りつき、髄液を吸う。
 蝉除けグッズや、蝉コナーズなどをもってしても、蝉は網戸に飛来して子供を狙うという。
 被害者の親はそういう蝉を捕まえ、同じ苦しみを味わう者がこれ以上増えないようにとの祈りを籠めて、子の名を記した待ち針で蝉を刺す。
 しかし、蝉は普通のアブラゼミで、子供らはみな熱中症と診断されている。
その他
公開:20/08/21 10:06
更新:20/08/21 12:24
へんな話

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容