鉄(かね)休め

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戦争状態のお盆を切り抜けた直後、仕事道具の花鋏がストライキを起こした。
切れる切れない以前に、刃が開かない。ネジを締め、梃子でも開くまいと柄を突っ張っている。
忙しさに追われ、こき使った自覚はあるが、いつもはちょっと良い油で釣れば大人しく働いた。今回は機嫌も刃先も斜めで、どんより鈍い光を放っている。下手に触ると文字通り血を見るので、やむなく上司に相談した。
「疲れて意固地になったな。こじ開けても無駄だ、鉄休めさせてやれ」
「かねやすめ、ですか?」
「人間だって骨休めをするだろう。鋏もたまに休みを挟まんとな」
微妙なダジャレはさておき、一理あると思った。手空きの時期を幸い、有休を取る。激務で溜まった汚れを落とし、磨いて研いで油を差した。

鋏と一緒にのんびり過ごして有休明け。
――ぱちん!と刃切れの良い音。
使っているつもりが、気を遣われていたのかも知れない。
最近重かった腕が、今日は軽い。
その他
公開:20/08/20 20:14
更新:20/08/20 23:50

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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