お椀の底

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 お椀の中にビー玉を入れると、コロコロと転がって、やがてお椀の底に止まる。こうなると玉はもうお椀の曲面を登っていく力を持たない。いつまでも底に留まって、ピクリともせず、上を眺めながらただ時が過ぎるのを待つばかりとなる。玉の背を押して曲面を登らせるのは容易ではない。
 そこで、少しずつ、ほんの少しずつ、お椀の方を揺すってみよう。玉はちょっとぐらつきはじめ、少し登ったり下ったりを繰り返して、その振れ幅を大きくしていくだろう。そこからさらに円を描くようにお椀に力を加えれば、玉はお椀の内をぐるぐると回転し続けるようになる。無我夢中の玉は、途中でお椀が動かなくなっても気づかずにしばらく走り続けるだろう。まるで自分の意志でそうしているかのように。しかしなぜか少しずつ足が弱まってしまい、自信を失くしていく。その時は玉に気づかれないように、ほんの少しずつ、またそっとお椀を揺すってやるのがコツである。
その他
公開:20/08/19 22:48

水素カフェ( 東京 )

 

最近は小説以外にもお絵描きやゲームシナリオの執筆など創作の幅を広げており、相対的にSS投稿が遅くなっております。…スミマセン。
あれやこれやとやりたいことが多すぎて大変です…。

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