ドーピング剤

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男は、今年も快調にヒットを量産し、その年の首位打者になった。
当然だ。
ドーピングをしていたからである。
なので、適当なところで凡退するのがコツだった。
このドーピング剤は不思議な物で、検査しても見つかることはない。
ただ、男に悩みがないわけではなかった。
ドーピング剤の副作用ともいうべきか、男の所属している球団は、いつも最下位だった。
もうすべての球団を渡り歩いたが、常に最下位を独走し、そのため球団は財政難に陥る。
高給取りの男は、いつもトレード要員だった。
だか、それはどの球団も知るところで、ある年ついに、トレード先が見つからなくなってしまった。
もちろん、その年も首位打者を獲得していたが、やむなく男は引退することとなった。
ただ、優勝などどうでもいいと思っていた男は、自分の生涯成績を見ては、満面の笑みを浮かべていた。
こうして、全球団経営者の悩みの種が、一つ消えたのである。
公開:20/08/19 11:30

ふじのん

歓びは朝とともにやってくる。

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