瀬田島さん

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もうずっと使われていない町はずれの公民館に瀬田島さんは暮らしているという。瀬田島さんと僕は湯治場の露天風呂で出会った。
僕はこの町で新聞配達をしながらUFOを待っている。この辺りが地球の停留所だという古文書を信じて。
瀬田島さんは隣町で夜だけタクシーの運転手をしていて、朝風呂でよく一緒になる。
話すようになって半年。歳は40歳前後だろうか。水泳選手のような広く美しい背中に乳房がひとつだけある。
最初の頃は混浴に緊張して話せなかったけれど、あるとき瀬田島さんがくれた水を飲んでからは、身体がすーっと浄化されたようにドキドキが抑えられて、普通に会話をできるようになった。
常温なのに背筋が冷えるその水は、タクシーの後部座席で消えてしまう乗客たちが座席に残す液体を集めたものらしい。
今夜、僕は公民館に誘われている。UFOが現れたら速やかにこの町を離れるつもりなのに、興味深い人に出会ってしまった。
公開:20/08/17 16:55
更新:20/08/17 17:17

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