餅つかない日々

私は妖怪たちが通う夜間大学校「餅つかない日々」で、人間探究コースの非常勤講師をしている。
新型コロナウイルスの感染拡大。長かった梅雨。豪雨災害。猛暑酷暑。野菜の高騰。頼りない彼。売り上げの低迷。指導者たちの無策。行きずりの恋。金の無心ばかりしてくる息子。水はけの悪い運動場。濡れたまま履いているスニーカー。いつまでも名前が呼ばれない待合室。しけた煎餅みたいな元カレの再訪。もうずっと回転している乾いた蟹味噌の軍艦巻。添えられたきゅうりの老い。知らないおじさんの差し歯が沈んだ湯呑み。それを知らずに飲んでしまったお茶。お店でひとりだけ注文を忘れられた場合のカウンターでの身の処し方。陽が暮れるとやってくる勧誘。身に覚えのない集金。房総半島におけるキョンの大繁殖。崖で暮らす逃げたヤギと飼い主の思い。寝苦しい熱帯夜。脱水をしなくなった洗濯機。
まったく餅つかない。
変わった名前の生徒ばかりでうんざりだ。