私にできること

4
6

「海のあさりを取りすぎてはいけないよ。細胞が絶えず生まれ変わっているように地球も日々生まれ変わっている。樹々が酸素を吐き出すようにあさりは地球を吐き出している。だから必要以上にあさりを取ったり砂浜に撒いてはいけない」
私は水筒の中で寝たきりになっている義父の話を聴きながら、外房線で九十九里に向かっている。
「競技場の資材の吐き出しは終わったから海に帰るよ」
夫は父親の受け入れ準備のために、一足先に九十九里に帰った。義父は都内で闘病していたけれど、容態が悪くなり、故郷の海で最期を迎えたいと言った。
車窓には夏があふれている。今まで美しい地球を吐き出し続けた老貝の義父に感謝を伝えるように、どこまでも青い空と真綿の雲が湧き迫る。
九十九里の沖合には地底と海面を行き来するエレベーターがあって、生きるものすべてが新陳代謝を繰り返している。
私は夫や義父が誇らしい。人は感謝を呟くことしかできないから。
公開:20/08/18 13:06

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容