ぽっかりとスイカ

11
10

 もうダメだ。
 起き上がる気力もなく見上げた窓の、忘れかけていた洗濯物と、室外機だらけのビルの隙間に、ほんの少しの夏空が見え隠れしてる。洗濯物を取り込まないと、首吊るヒモもありゃしない。涙を流し尽くしたわたしは喉がカラカラ。このまま死んだら死因は室内熱中症で、わたしの自殺メンタルに誰も気づいてくれないだろうから水を飲もうと起き上がり、流しに行ったついでに包丁を手にした。
 痛いのは嫌だけどヒモはないし、オール電化だからガスもないし、常備薬はバファリンしかないから、やはり手首をイクしかない。ユニットバスの蛇口をひねる。水が溜まるまですることがない。ぼーっと蛇口。そこへ玄関チャイム。宅急便だ。実家からでかいスイカ。冷蔵庫には入らない。包丁?
 ユニットバスだ! 水が溜まっている。
 ぽっかりとスイカ。
 わたしは包丁を一旦仕舞い、スイカが冷えるまで洗濯物を取り込んだりする。鼻歌を歌いながら。
その他
公開:20/08/18 12:52

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容