都会のセミと新しい世界

「先生！　セミ捕まえてきたよ！」
　小学生くらいの男の子から虫篭を受け取ると、男は満足そうに笑みを浮かべた。
「よくやったな！」
　男はワシャワシャと男の子の頭を撫でまわした。
「ねえ、こんなに沢山どうするの？」
「知りたいか？　新しい世界を作るんだよ！」
　男が含んだ笑いを向ける。
「うわー、先生も悪の宇宙人なの？」
「うん、そうだな。どうだ？　新しい世界をおまえも見たくないか？」
　男はそう言うと、男の子を引き連れて地下鉄の駅へ向かって歩き出した。
「えっ、先生？　地下鉄乗るの？」
「そうだ、この都会のど真ん中を走る地下鉄だから効果的なんだ！」
　男は地下鉄に乗り込むと、躊躇することなく、虫篭のセミを車内に解き放った。
　その瞬間、帰宅ラッシュで混み合う車内のあちこちから悲鳴が上がった。
　所狭しと飛び回るセミたち。逃げ惑う人間たち。
　車内はセミによる新しい世界へと変貌していた。