その奇跡は悪意か善意か?

6
6

 病院からの帰り道、男は妻に何と説明しようか迷った。
「最悪だ」
 最悪の現実、絶望したと言っても良かった。

 妻は妊娠を望んでいた。
 それこそ、神に祈りを捧げるまでに。
 妻の願いを叶えたかった。男も神に祈り続けた。心から。

 先々月、妻は『お告げ』を授かったと言った。
「あなた、もうすぐ、『赤ちゃんができる』って」
 ふたりは喜んだ。夫婦の努力が全て報われると信じた。
 嬉しかった。
 

 男が帰宅すると、妻は、「妊娠した」と報告した。
「あなた…愛している。ありがとう」

 瞬間、男の脳内は、血と絶望で支配された。

 信じていた神に裏切られたと感じた。まるで現実に存在するかのごとく、神を、憎悪した。

『先天性の無精子症。自然妊娠の確率は0%です』

 医師の言葉を思い出す。と同時に、男は妻に殴りかかった。
 神など、いない。
 そう。
 そこには、奇跡を信じぬ鬼がいた。
ホラー
公開:20/08/16 01:34
更新:20/08/16 08:42
聖母

Sees

ショートショート好き。
得意ジャンルはホラー。
座右の銘は『清く正しくいやらしく』。
好きな書籍は『悪魔の辞典』と『悪魔の寓話』。
制限400字という発想に感銘。
コメントとフォローはできるだけ返します。

楽天ブログにて『株式会社SEES』の名でショートショートと短編小説掲載中。
https://plaza.rakuten.co.jp/gomishi14/
よろしければ、ぜひ。そして、たまに呟きます。
https://twitter.com/IiSees

さて、今日はどんな事件が起きることやら……。



 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容