青桜の候

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連日の酷暑に体調を崩し、臥せって過ごした宵の口。目覚めた部屋の涼しさに、一雨来るかと網戸を閉めに掛かった。
とうに陽も沈んだのに、戸口がうっすら明るい。気になって草履を引っ掛け玄関を出る。寝巻きを通る風は、打ち水の甘く湿った匂いがした。

踏んだ土は微かに湿り、どうやら既に降られた後だ。星を撒いた様に雫が光り、萎れた庭草も息を吹き返したと見える。
この暑さにちらほらと、芝桜が咲いている。
亡き夫の好んだ花。本当は樹の桜が欲しかったが、老人二人では手に余る。せめても形と名の似た花を選んだ。

じき百に届こう大往生だった。遅くに嫁いだ私は、青年の頃の夫を知らない。毎年咲く花を指折り数え、低く口ずさんだ背中しか知らない。紅は駄目だと、わざわざ青花を探した理由も訊かず終いだった。
朝には送り火を焚いて、花の香の名残でも届けよう。今夜逝く露と過ぎ行く十五日に黙祷を捧げる。風がゆるりと小鬢を撫でた。
公開:20/08/15 23:14

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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