胸焦がすオレンジ

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絵筆が進まない。
何か壮大な物を描きたいのにペンが踊らない。
胸には空虚な焦りだけ。
あと少し。もう少しで何か降りてきそうで降りてこない。

美術室はオレンジ一色で満ちている。
机の木目や私の肌にも夕日色が落ちている。

諦めて、ベランダに出てみた。
テニス部のボールの音がする。
軟球の弾む音が校庭に響く。

『なあ!』

下の階から声が聞こえる。
テニス部所属の腐れ縁。

『一緒に帰ろう!』

少し緊張した顔が面白くて、なんで緊張しているかも先日の告白でわかっている。
私は何故ペンが進まなかったのか知っている。
浮かれているのだ。
返事を心に決めて、私は美術室を出た。
3階から駆け下りる。
距離がもどかしい。
上履きを変えるのも面倒だ。

収まりそうにない猛る気持ち。
夕陽がチリチリと肌を焦がす。

今、手を振る君へと走りだす。
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公開:20/08/15 00:44
更新:20/08/15 01:49

雨森れに( 東京 )

色合いの綺麗な物語を紡ぎたい。
シーンごと切り取られた刹那。
不思議、恋愛、ファンタジー、怪談、純猥談などをチラホラと。
中身はお酒が好きなアグレッシブ。

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