R氏の禁煙

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 R氏は風邪を引いて喉が痛くなり、しばらく煙草をやめた。
 二週間ほど我慢して、久しぶりに一本を吸ってみると、その一本はまるで初恋のようにトキメキに満ちた味わいであった。そこで彼はむしゃぶりつくようにすぐさま二本目を吸った。だが、それはもう何の変哲もないいつもの煙草の味に戻ってしまっていた。同じ物を吸っているはずなのに。
 R氏は再び二週間禁煙をしてみることにした。解禁直後の煙草はやはり美味しかった。だが病み上がりに吸ったあの伝説の一本には届かない…。
 R氏はさらに禁煙期間を三週間に伸ばしてみた。そうやって禁煙期間を徐々に延ばしていき、究極の一本を求めて、今では禁煙五年目となった。いまや彼が愛煙家であることを知る者は周囲にいない。それでも彼の頭の中にあるのは、最高の一本を吸いたいという一念であった。
 さて、五年ぶりのタバコの味はいかに——。
 彼は嬉しそうに煙草をくわえ、火をつけた。
その他
公開:20/08/14 22:54
更新:20/08/14 22:56

水素カフェ( 東京 )

 

最近は小説以外にもお絵描きやゲームシナリオの執筆など創作の幅を広げており、相対的にSS投稿が遅くなっております。…スミマセン。
あれやこれやとやりたいことが多すぎて大変です…。

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