辞典士　2（後編）

「おっと」
俺は身を翻して躱したが、後ろにいた信者に黒い波動が命中した。信者は呻き、胸に手を当てながら倒れた。
「あーあ、殺人罪だ。それ死別って意味だろ」
「くっ…お前達、この男を捕えろ！『とらふ』」
言葉をかけられた信者達がこちらへ向かって来た。
「させるか。『元の木阿弥』」
辞典から白い光が溢れ出し、信者達を覆った。
「私は一体…？」
「ここはどこだ…？」
更に辞典を捲る。
「『覆水盆に返らず』」
今度は青い光が溢れ出し、元信者達を更に覆った。
「これでもう『をかし』は通用しねぇ」
「おのれ！」
「もういいだろ。『舌の剣は命を絶つ』」
教祖の舌が伸びると剣に変わり、胸に切っ先が突き付けられた。
「何か喋ると心臓に刺さるぞ」
教祖の顎から汗が滴った。そして強く目を瞑り頭を垂れた。観念したらしい。
こうしてまた一人、違反辞典士の免許が失効した。
『辞典自警団』に属する俺のパトロールは続く。