臆病ヤドカリ海の旅

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目の前の岩に張り付いたイソギンチャクが、ぼくに話しかけてきた。
「ねえ、ヤドカリさん。君は動けるのに、どうしていつも岩陰に隠れているの?」
「怖いんだ。タコに見つかればまるごと食べられちゃう」
「それじゃあ、ぼくを君の背中に乗せておくれよ。ぼくの触手で君を守ってあげる」
「ほんとうに?」
「うん。その代わり、ぼくをいろんなところに連れてってくれないかな」
その日から、ぼくらは海を一緒に旅した。
誰も知らない海中洞窟。光り輝くサンゴの群れ。ときには、クジラの大きなお腹の中も旅した。
はじめはとても怖かった。というか、今でも海はだいぶ怖い。
でも、まだまだ見たい景色は沢山あるし、なにより、いつまでも君と一緒にいたいから。
「ねえ、イソギンチャクさん。これからもぼくのこと守ってくれる?」
「もちろん。君も、これからもぼくに知らない海を見せてよ」
ぼくは頷くと、君を乗せて再びゆっくりと歩き出した。
その他
公開:20/08/14 14:49

日常のソクラテス( 神奈川 )

空想競技コンテスト銅メダル『ピンポンダッシュ選手権』
空想競技コンテスト入賞  『ダメ人間コンテスト』
ベルモニー Presents ショートショートコンテスト入賞 『縁茶』
X (twitter):望月滋斗 (@mochizuki_short)

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