オモイハセサボテン

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彼は、街の小さな園芸屋であるものを買って帰ってきた。
「オモイハセサボテンっていうんだ」
「なにそれ」
「週に一回、愛する人に思いを馳せながら水をやるんだ。そうすると、サボテンに気持ちが伝わり、花を咲かせるらしい」
「ふーん」
その日から、二人でこのサボテンを育て始めた。

「もう出てって!」
私がそう言うと、彼は荷物をまとめてすぐに家を出て行った。
彼はオモイハセサボテンを家に置いていった。
捨てるわけにもいかず、私はこのサボテンを育て続けた。
毎週、水をあげながら、思い出したくもないはずの彼のことを考えていた。

すると、ある朝、サボテンが小さくて可愛い、ピンクの花を咲かせていた。
彼はもういないのに。
なんだか、目から水が溢れてきた。
こんな水。サボテンにもやれない、ほんとうにどうしようもない水だ。
頭の中でいくらそう唱えても、この水は、溢れては頬をつたって流れゆくばかりだった。
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公開:20/08/13 23:16

日常のソクラテス( 神奈川 )

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