イミテーションラブ

電子ノイズ交じりの悲痛な叫びがした。
私が研究室に駆け込むと、ナノホルモン注入器が床に落ちていた。
「何をしたの！」
「いいじゃん。パパがくれた玩具なんだから」
ケンは不敵な笑みを浮かべて言った。
私は思わず彼の頬をひっぱたいた。
「あの子に本当の心がないとは言い切れないんだよ！」
「嘘つくなよ。毎日同じことしか言わないくせに」
カーテンの裏に隠れていたジルが姿を現した。半脱ぎ状態の白ワンピースに乱れた長い髪。疑似生物特有の薄灰色の肌が、少し赤味を帯びていた。
「坊っちゃま…もうやめて下さい」
「おい、好きなんだろ？僕のことが。だったらいうこと聞けよ！」
首を横に振り、ジルは自分の胸に震える指を当てた。
「これは私の本当の感情じゃありません。ただのプログラムです。この表情も」
ジルの目からオイルが流れ出ている。
ケンはジルの胸に頭を埋めた。
その胸の中で彼の涙がジルのオイルと混じり合った。