夜ぞら

1
3

「今日、流星群が見えるらしいよ。」

そう言い残して、彼は行ってしまった。急な転勤で、彼がいなくなることを知ったのは1ヶ月前。彼は私にとって、彼氏でもなく、夫でもなく、たまに一緒にお酒を飲むだけの、ただそれだけの存在だった。

「見えるかな。そういうの、いつも見れないのよね。」

間が悪い私は、流星群だとか、日食だとか、そういうタイミングが必要なものをことごとく見逃す。

「いいから。俺の代わりに見てみてくれよ。夜10時くらいらしい。俺、その時間は新幹線の中だから。」

随分無責任なお願いだなと心の中で呟く。

一緒には見てくれないのね。

なんて言えるはずもなく。だって私、あなたの何者でもないもの。一緒に星を見てだとか、星が綺麗だねなんて会話できるはずもないもの。

きっと今日も、星は見えずに終わるのだろう。けれど、一縷の望みをかけて夜空を見上げる。もし見れたとしたら、その時はーーー。
公開:20/08/13 01:01

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容