蟬の声

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蟬の一生は短い。その分、人にはない特殊な能力を持っている。

種として記憶のバトンをつなぎ続ける。短い一生の間に見たこと聞いたこと感じたこと全てを、子をもうけた時に、息絶える前に、次の世代に引き継いでゆく。

だから、蟬の鳴き声には夏の記憶がつまっている。

楽しい記憶も、悲しい記憶も。

かけがえのない花火やバーベキューの記憶も、忌まわしい戦争の記憶も。

蟬時雨は、日本が積み重ねてきた夏、そのものなのだ。

そんな蟬たちにとって、人の習性は不思議でならない。「人はなぜ、忘れてしまうんだろう」

結果、歴史は繰り返される。

だから、蟬たちはあらん限りの力を振り絞って泣く。

人に忘れてほしくないから。悲しい歴史を、繰り返してほしくないから。

蟬の声には、そんな願いが込められている。
その他
公開:20/08/12 15:13

ふみなか( 東京 )

40代半ばの会社員。家族は妻、中3息子、小6娘。つらつらと文章をつづるのが好きです。読んでいただけたら嬉しいです。

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