マーメイドレース

マーメイドテールと呼ばれる、人魚の下半身を模したフィンを装着した選手たちは、海中のコースにある、泡でできたリングを順にくぐり、ゴールを目指す。
このレースは、泳ぐ速さだけでなく、人魚らしい華麗なフォームも審査され、優勝者には王子との結婚が約束される。

クジラが大きな鳴き声を上げ、潮を吹き上げると同時にレースが始まった。
人魚たちが次々とリングをくぐっていく。
その中に、一際目立つ人魚の姿があった。
赤茶色のロングヘアーをなびかせる、優雅でまったりとしたフォームにもかかわらず、圧倒的なスピード。
フィンがしなるたび、海中に差し込む光に反射したエメラルドグリーンの鱗が煌めく。
横に身体をひねりながら最後のリングをくぐり、彼女はゴールした。
優勝は彼女に決まりだ。誰もがそう思った。
しかし、レース後、彼女が王子の前に姿を現すことはなかった。

海は見ていた。彼女が泡となって消えてゆくのを。