しゃちこの山

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それは一目で鯱子だとわかった。
「ねぇ私のことわかる?」
「蚊奈でしょ」
「覚えてるんだ。日本語」
「バカにしてんの?」
「そうじゃないけどアンタ鳥みたいにしてるから」
ツバメの去った巣に幼なじみの鯱子が暮らしているのを見つけたのは故郷の商店街だった。
「帰省?」
「そうなんだけど実家が更地なの」
「あぁ。巣立ちね」
第三セクターの鉄道が廃線となってから駅前アーケードは閑散として、今年は帰省する人も少ないからか、わずかに残る店も営業を諦めて、親を捜し歩く私のほかには野良猫一匹歩いていない。
お盆休みの炎天下。息を止めて時を煮込んでいるような古い洋装店の軒先にそのツバメの巣はあって、その中で鯱子は洗濯物を干していた。
青田鯱子。小中高と好きな男子を取り合いながら私たちは育った。可愛くて獰猛な鯱子は高校時代、私の兄と失踪した。中落ちします。と残念なメモを残して。
あぁ。聞きたいことが山積み。
公開:20/08/11 10:24

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