リバース走

　ようやく勝ち取った出場権。年齢別リバース走。ピストルの音が鳴り響き、選手たちが一斉にスタートする。

　リバース走とは、今の年齢から遡り、自分の人生を逆走する競技。
　自分の人生の轍を逆戻りし、生誕というゴールを目指す競技だ。

　男はスタートからペースを守り走っている。
　すると、仕事で重大なミスをし、得意先の社長に土下座する自身の姿が目に飛び込んできた。まだ真新しい過去だ。
　あの日の悔しさを噛み締めながら、それをバネに走り続けた。

　両親の他界。妻との離婚。友人との離別。受験の失敗。そして、諦めた夢。
　すべての過去が重くのしかかる。それでも男は、走馬灯のように流れる景色を横目に全力で駆ける。生きてきた道のりを確かめるように。

　男の身体がゴールテープを切る。リバース走での悲願の優勝。
　これまでの人生のすべてが報われた気がして、男は感極まり、大声で泣いた。

「おぎゃー！」