記憶を失った工作員

　彼は日夜、厳しい訓練を受けA国で並ぶ者の無い暗殺専門の工作員となった。彼はA国の邪魔になる人間を命令に従って抹殺する。彼に狙われて生き延びられる者はいなかった。彼が誰かの暗殺のために差し向けられたと噂が流れれば、その相手は、もはや恐怖しながら待つ以外に方法が無かった。
　だが全てが全てがうまくいくとは限らない。
　あるとき彼は、A国内部の人間の裏切りにあい、敵対勢力の人間の暗殺任務中に爆発に巻き込まれてしまった。だがさすが鍛え抜かれた彼は重傷を負いながらも生き延び、見知らぬ一般人に助けられ介抱された。
　彼は目を覚ました。
「ここはどこだ……」
「ああ、やっと目が覚めたのね。よかったわ」
　若い美しい女が彼に微笑んだ。
　彼は自分のプロフィールや帯びていた任務はハッキリ覚えていたが、戦う方法の記憶を全て失っていた。
　彼は今度は自分が怯え震えて、追っ手を待つ以外に何も思い浮かばなかった。