海面花火

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海面花火が行われる日の夕暮れ、大勢の人たちが集まっていた。一風変わった花火に違いないと打ち上がるのを今か今かと待ちわびた。
開始のアナウンスとともに、真っ暗な海面の色が変わり始めた。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫ーー七色のレインボーカラーだ。闇夜の海面を波と呼応しながらリズミカルに点滅し、色鮮やかに光っている。そのグラデーションの美しさに歓声があがった。
終了後、海面の色が変わる理由を主催者に尋ねると
「発光する物質や酵素を持つプランクトンの夜光虫です。大発生すると夜に青白く光りますが、遺伝子操作やクローン技術によって、さまざまな色を無数に出せるようになりました」
返答があった直後、主催者は顔を曇らせ
「夜光虫の鞭毛に特殊なセンサーを取り付け、運動を制御しています。このあと、大半の夜光虫は運動を停止して海に無害な死骸となるのですが、ほんの一部は暴走して異常増殖し、赤潮を発生させてしまうのです」
SF
公開:20/08/09 19:32
海面 花火 プランクトン 夜光虫 遺伝子操作 クローン技術 鞭毛 センサー 赤潮

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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