落とし物競争

落とし物達は遺失物センターでその競技を人知れず行う。
ルールは簡単。持ち主をただ待つだけだ。持ち主が取りに来た物が勝者である。
この競技に順位はない。あるのは『持ち主が迎えに来て、大切にされている幸福を享受する物』と『持ち主が迎えに来ず、捨てられた事実に絶望する物』だ。
ただ待てばいいこの競技。１週間、１カ月ならまだ待てよう。
それが１年、１０年ともなればリタイアを申し出る物もいる。道半ばで破損し、棄てられる者もいる。
この競技の勝者は持ち主次第。物を生かすも殺すも人次第。
人も物も死ぬのは怖い。だが忘れ去られ、不必要とされるのはもっと怖い。
故に早々にリタイアし、早々に新たな持ち主を探そうとする物も多い。傘なんてその筆頭だ。
「使い捨てなら、せめてスマホや財布になりたかった」と涙する。その雨漏りを受け止めてくれる存在はいない。
落とし物達は今日も待つ。この競技に生涯を賭けて挑んでいる。