天才と狂人は紙一重【改】

2
3

20代の頃に精神病院へ入ったときの話。

壁紙サイズの大きな紙に戦艦ヤマトの水彩画がでん!と描かれていた。
その絵は、夏祭りを盛り上げるための風物として、最高の出来映えだった。

満足気に看護師長と二人で、絵の完成を見守るアイさん。

ただ一つ。
首をひっきりなしに回転させている所を除けば、天才ここにありきの方だった。

昔は絵が下手だったそうだが、生命の神秘に触れて思い通りの絵が描けるようになったと話すアイさん。

彼はいつも周りの事を考えていた。
退院した患者がどこへ行っても勤められるよう、電話帳を丸ごと記憶した勤め先の連絡先を、まるで書を嗜むように待合室へ貼っていた。

社会の片隅において、徳を積む彼の姿は、全くの狂人でありながら、私が初めて会った正真正銘の天才。

天才と狂人は紙一重を体現された方だった。

今はただ、生死不明のアイさんが安らかなようにと祈るばかりである。
青春
公開:20/08/07 16:42
更新:21/02/27 22:11
ノンフィクション

水鏡かけら( 日本 )

執筆のリハビリがてらに、書いております。
noteでは、web小説や映画のレビューも書いています。
*アイコンは、むしのいき様@333Musino

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容