空を走れ

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高層ビルの谷を立体的に駆け回っているのは、学生時代チームを鼓舞し続けたエース。卒業と同時に一線を退いた僕は、スタート地点のスタジアムの巨大スクリーンで見守る。僕たちは陸を走ることを専門に学生時代を過ごしていて、当然のことながら忍者みたいに駆け回るなんてことは誰からも教わっていない。けれど、記録を出すこと、結果を残すことが強く求められるシビアな世界で、エースは限界まで追い詰められていた。
「・・・ふふっ」
僕が空へ逃げようと口にした時に見せた、あの間抜けな顔はどこへやら。正式種目として認められたばかりで、コースアウトすれば命に係わるスポーツなのに、スクリーンに映し出されたエースは学生時代と変わらない屈託のない笑顔で空を駆けていた。そこに順位は関係ない。大事なのは純粋に競技を楽しむことだけ。誹謗中傷は今日も容赦なく浴びせられる。それでもエースは強気に言い切った。「全ては楽しんだ者勝ち!」と。
その他
公開:20/08/06 17:29

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