ヒーロー争奪戦

あの日のヒーローは、あの日の自分を二度と見ることもない。そのヒーローに襷を渡すことが出来なかった自分は、ヒーローになれないまま運命の日を迎えた。
じゃあさ、大舞台でヒーローの座の奪い合いっこ、しようぜ。
そんなことをあっさりと言いやがったあの日のヒーローは、自分と同じスタートラインに、いつもと変わらず自分の隣に立っている。同じ４２．１９５ｋｍと言う、とんでもない大舞台へ挑むために。
「俺、ヒーローになったらどうしよう！また『うるせぇ』って言われちゃうのかな！？」「いや、すでにうるさいから。こっちは緊張で吐きそうなのに」「え、マジ！？トイレ行く！？」「スタート前に失格とかマジ笑えないから止めろ」
いつの間にかスタート前のルーティーンになっているこのやり取りは、初めて出会った時から何も変わらない。
「今日こそ俺がヒーローになる」「じゃあ、俺はその座を守る！」
さあ、勝負開始といこうじゃないか。